海洋冒険小説
「Missing 3〜中年南海漂流記〜


運命の悪戯か?神の罰ゲームか?
南海の不思議な孤島に流れ着いた
3人の普通のおじさん達。
彼らが無人島生活で取り戻す
都会暮らしで失くした何かとは?

心が旅をする冒険ファンタジー

不定期連載中!
気の遠くなるほどの中断を経て、ついに帰還!

連載第26話“帰還”更新!


STAGE1 Back Number
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「MELODY CALLING」 by 田村充義
バイト先のデパートで知り合った年上の女の子。
ケイタイのメロディーコールで彼女が僕に送るメッセージの意味は?
そして切ない二人の恋の行方は?

「1000億光年の彼方」 by 奥山六九
いつも通勤の電車の同じドアの前で見かける彼。
ひょんなことで始まった二人の淡い恋と突然の別れとは?

「友人28号」 by 逢谷人
匿名係長・三谷拓哉シリーズ。この短編の主人公は三谷の長男。
友達とただの知り合いの境界線ていったいなんなんだ?
考えてみよう。あなたの友人は、あなたを友人とみとめているのだろうか?

「最後の22分」 by ワダマサシ
もしもこの世があと22分間で終わってしまうとしたら、あなたは残された時をどう使うだろうか?
これは最期の時を友人と音楽を聴いて迎えた人たちの物語。

「過去との遭遇」 by 逢谷人
山手線の車内で遭遇したのは“二十歳の時の自分自身”だった。
思わず“オレ”は過去に話しかけてしまうが、その時ヤツが気づかせてくれたこととは?

「ナオミの夢」 by 逢谷人
匿名係長・三谷拓哉シリーズ。ソンポに勤めるオレは空気の読めないオトコと言われている。
言いたいヤツには、言わせておけばいいさ。だってオレにはナオミがいるんだもん。

「学校教育」 by 奥山六九
文部科学省に勤務するわたしがおおせつかったのは、新しい“教育唱歌”をつくることだった。
短い期間にそんな慣れない大役を果たす事が出来るのだろうか?そして…

「ルームメイト」 by 角森隆浩
オレはシドと呼ばれたかっただけさ。
隣に住む運命の人ナンシーなら、おれのパンクな気持ちをわかってくれるはず。
ネグラを奪われたオレはナンシーの部屋を訪ねるが…。

「潮騒のカセット(洋楽編)」 by 逢谷 人
「潮騒のカセット(邦楽編)」 by 逢谷 人
1985年夏−オレは彼女を誘い海岸まで車を飛ばした。
とっておきの音楽を詰め込んだ“潮騒のカセット”を用意して。

「赤いスイートピー」 by 逢谷 人



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2009年09月23日

赤いスイートピー

story by 逢谷 人


松田聖子がデビューしてから、早いものでもう30年が経つんですね…。


まだ4月だと言うのに、初夏を思わせる華やいだ光が青山通りに新緑の影を鮮やかに落としていた。
日差しをこれほど好ましく感じるのは、得意先との重要な商談が無事終わり肩の荷が降りたせいだろうか。
三丁目の角で若い社員と別れたあと、澤田祐子はパートナーの山崎みどりとおそい昼食をとろうと渋谷方面にゆっくりと歩き始めた。
短大を同期で卒業した二人がOL生活の挫折の果てに立ち上げた女性だけの人材派遣会社は、大成功とは言わないまでも立派に軌道に乗りかけていた。
「一仕事すんだら、おなか空いたね」
「骨董通りに、学生時代からよく通ったビストロがあるの」
「もしかして“ボンボン”の事?もう20年以上も前よ。とっくにつぶれてるんじゃない?」みどりが言った。
「大丈夫。先月も一度行ったけど、時計が停まったようにあの頃のままだったわ」
二人が5丁目の角までたどり着き、ふと懐かしい母校の正門を覗きこむと、中庭にフォーマルな装いの人々が大勢溜まっているのが見える。
「そうか…。今日は入学式の日だったわね」祐子は短大の同窓生に言った。「みどり、懐かしいからちょっと覗いていかない?」
「学食でランチっていうのも悪くないわ」
すぐに方針変更した二人は、母校の門をくぐっていった。
新入生とその父兄、クラブに勧誘する在校生でごった返すキャンパスの中は、萌えるような新芽の馨りで充たされていた。
「あたし達、どう見ても新入生の母親ね」祐子が並木の舗道を歩きながら、自嘲気味に言う。
「ふう…。こんな頃があったのか…」みどりが溜息をついた。「若さが眩しくてウザいくらいね」
二人は中庭の見渡せるベンチに腰掛け、賑やかなオリエンテーションの風景をバックに昔話を始めていた。
散り残った桜の花びらがひらひらとそよ風に舞い、祐子のひざにとまる。
「そう言えば、みどりの別れた亭主って、初日のクラブ勧誘を装ったナンパが出会いだったんでしょ?」
「ホント、今考えれればバカみたいな話よ。ちょうどあんな感じ」みどりが、新入生と見るや声を掛け捲る男子学生を指さして吐き捨てるように言った。「私の青春を返して〜」
「若気の至りってヤツね。でも一度結婚を経験できたからよかったじゃない」祐子が言った。
「あら、あなたまだ結婚する気があるわけ?」
「まさか!」そう言って祐子は微笑んだ。「今でも、結婚していたらどうなっていたのか考える事はあるけどね」
「ははあ…良介のこと?」みどりは言った。「今だから言うけど、あれは優柔不断な男だったと思うな」
「悪かったわね。でも、わたしはそこに魅かれたんだから…ほんとうに不思議ね」
「祐子、出会ってから半年経っても手も握ってくれないって、悩んでたじゃない」
「変態じゃないかと心配になったの」
「プッ!笑わせないでよ」
「でも、わたしを大切に思ってくれていたせいだと納得たんだけどね。事実そうだったんだと思うな」
「ふうん。じゃあ、なんで別れたんだっけ?」
「よくある話。わたしの卒業がきっかけ…」祐子は、青空に浮かぶ千切れ雲をチラリと見上げた。「先に社会に出て、まだ学生だった良介がだんだん子供に思えたのね…」
「物足りなくなった?」
「そんなところかな…。彼の方も、見ている方向の違いを感じたのかもしれない」祐子は言った。「わたしの方から将来の事を訊いたら、彼はなにも答えられなかった」
「やっぱり優柔不断じゃない」
「そうかなあ。あれは、若さのせいだと思う」祐子は言った。「彼にも夢があったし、あの時はとても将来を語れなかったのよ」
「ふうん。彼、ミュージシャン志望だったっけ」
「うん。でも、良介はいいところも沢山あったのよ。誕生日には花を贈ってくれたり」
「花?知らなかった。あのボクちゃんがねえ」
「赤いスイートピーを毎年くれたわ。別れてからも、花だけはしばらく贈られてきた。わたしの誕生花だって」
「へえ!ロマンチックね。未練がましいともいえるけど」
そう感想を述べたみどりの肩越しに、中庭の花壇の前で父兄たちが記念写真を競うようにして撮っているのが見える。
「いくつになっても、子供は子供なのね…」
懐かしくて胸がキュンくるような光景に、祐子の顔にも思わず対岸の笑顔が伝染していた。
「なにが可笑しいの?」祐子につられて花壇を振り返ったみどりが、何かに気づく。「あれ?右の隅のほうで女子学生に向けてカメラ構えている黒いスーツの紳士、もしかしたら…」
「え?どれ?」祐子は立ち上がり、額に手をかざし言われたほうを見て息をのんだ。「…。あ!良介だわ…!間違いない。こんな偶然て、あるのかしら」
「やっぱりそうでしょ?!」
長くウェーブのかかっていた髪の毛は短く切られ、白いものが半分以上混じってはいたが、目を細めて娘を見守る優しい眼差しは、昔日の面影を十分に残していた。
「どうする?声をかけに行こうよ」みどりが、いたずらっぽい表情で祐子を誘う。
祐子は首を横に振り、結婚もせずに仕事に生きる今の自分を学生時代の恋人の前にさらすことを躊躇っていた。
「あたしもついてるから大丈夫だって!」みどりは祐子の袖を引き言った。「あなた、今日は運良く服装も髪型もバッチリよ。こんな機会逃したら後悔するって!」
「でも、奥様が…。お嬢さんにだってなんて言ったらいいの」
「周りに奥さんらしい人は、いらっしゃらないみたいよ。小娘のことなんて、気にしない気にしない!行くよ!」みどりはもう立ち上がり歩き始めていた。
赤い花の揺れる花壇に一歩一歩近づく度に、一年づつ時が巻き戻っていくような感覚に、祐子の胸は高鳴っていく。
「あの…。竹之内さん…ですよね?ご無沙汰しています」大きく深呼吸をしてから、意を決してジャケットの広い背中にあの時と変らぬ苗字を伝えた。「澤田です。憶えていらっしゃいますか?」
「こんにちは!」みどりがあっけらかんと続く。「久しぶりで〜す」
振り返った良介は、二人を交互に見た。
唐突に呼びかけてきた中年女性が過去に大切にしていた人とその親友であることに気づくと、良介はみるみる驚いた顔になり、次に祐子の現在を値踏みするような表情を一瞬だけした。
「さ、澤田さん!ええと…山崎さんも!なんて久しぶりなんだろう」良介は、意外にも明るい声で応えた。「懐かしいなあ。いまどうしてるの?入学式にいらしたということは…お子様は?ぜひ紹介して下さいよ!」
「いや、そうじゃなくて…」
みどりが裕子に代わってここにいる理由と近況をかいつまんで説明すると、良介は「そうだったんですか…」と納得顔で何度も頷いた。
「あの…奥様は?」今度は祐子が訊いた。
「亡くなりました…。あの娘が中学生の頃だった」
「ごめんなさい、立ち入ったこと訊いてしまって」
「いやそんな。おい、ちょっとこっちにおいで」良介は、娘を手招きした。「紹介するよ。こちらお父さんの学生時代のガール・フレンドだった澤田さんと、そのお友達の山崎さん」
「初めまして。竹之内聖子です」切れ長の瞳の美しい娘が、丁寧にお辞儀をして微笑んだ。
「せ、聖子…さん?」
祐子は娘の名前を思わず訊き直し、驚いた顔で良介を見た。
それは、付き合っている頃に、自分が女の子供を生んだら“聖子”と名づけると冗談混じりに良介に語っていたことを、ふと思い出したからだった。
「少し時間ありませんか?」笑顔の良介が二人を誘った。「よかったら、食事に付き合ってくれませんか?あの店に久しぶりに行ってみたいんだ。娘を連れてね」
「もしかして、“ボンボン”?」
良介はニッコリ頷いた。
信じられないような偶然がもたらした不思議な会食は、タイムマシーンのような懐かしい店の雰囲気も手伝って、祐子に時の経過も忘れさせるほど心地よいものだった。

お互いに連絡先を交換し、あの日“ボンボン”の前で別れてからもう一年が経つ。
渡された良介の名刺には、そこそこ名の知れた楽器店のオーナーの肩書きがついていた。
彼もまた自分の夢を追い続け、どこかでそれなりの落としどころを見つけたようだった。
そして今日、一人ぼっちの祐子の部屋に赤いスイートピーの花束が届いた。
祐子は反射的に一年前の再会の日に良介が懐かしいレストランで語ったあの言葉を思い出していた。
「社会へと先に巣立った澤田さんが私にはとても眩しく見えました。夢を捨てきれない自分が情けなくて…身を引くのが一番いいと考えましてね」娘が席を外した隙に、良介はそっと教えてくれた。「ご存知でしたか?赤いスイートピーの花言葉は、“門出と別離”なんです…」
花を贈った真意は、それが祐子の誕生花だったからではなかったのだ。
小さな胸のつかえが下りたようなその時の感覚を、祐子は再び思い出していた。
「なんて可憐で健気な赤色だろう…」
祐子の46回目の誕生日は、心まで去年よりずっと温かく感じる日曜日だった。


<了>


  

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posted by 「HEART×BEAT」事務局 at 17:58| Comment(0) | 短編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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